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私とモカ ― 保護施設から始まる、ひとつの命の物語

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犬
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目次

プロローグ

これは私とモカの事実を元にした、ドキュメンタリー小説です。

もし、読んでいて不愉快になってしまったら…そっと閉じて下さいね

それでは、宜しくお願いします。

僕はモカ

目を開けると、そこは薄暗かった。

電気もつけず、薄暗い部屋で僕は産まれた。

僕と同じような犬がたくさんいた。時々、ドアのポストの穴から食べ物が落ちてきた。

落ちてこない日もあって、僕たちは飢えていた。だから犬同士が喧嘩になったり、共食いをしようとする犬もいた。

「助けて! 誰か!僕たちはここにいるよ!」 僕らはたくさん吠えた。

でも、すぐには誰も助けに来てはくれなかった。

糞と尿の匂いで充満した部屋で、僕たちはずっと、誰かが助けてくれるのを待っていた。

犬たちが争う中で、巻き込まれないように僕はすみっこの方に隠れていた。

何年かたったある日、ボランティアのおばあちゃんたちが助けに来てくれた。

「もう、大丈夫だからね」

こうやって、僕たちは助かったんだ。

第一話「捨てられた猫と僕」

ここは、保護施設ってところらしい。 檻の外には人が来て、時々誰かが連れて行かれる。 でも、ここにいるみんなの目は、どこか諦めているように見えた。

そんな中、僕は彼女に出会った。

――ミケ。

茶と白と黒がまざった、きれいな毛並みの猫。 でも、誰とも目を合わさない。声も出さない。 ひとり、ケージの隅で丸まって、人や犬や猫が近づくと「シャー!」と威嚇してくる。

「こんにちは。ぼく、モカっていうんだ。よろしくね」

僕がそっと声をかけると、彼女は動かなかった。 けど、しばらくすると――

「…あんた、うっとうしいわ」 小さくて低い声が返ってきた。

「え? なんかしたかな…?」

「話しかけんな。あたしはな、『誰か優しい人に拾われてね』って、捨てられたんや! ご主人に『連れて帰って!』って叫んでも、ご主人はいなくなった……。お前もそうやろ? 人間なんて身勝手で、動物のことなんか考えてへん。誰も信じん方が、ええねん……」

彼女の目は、どこか遠くを見ていた。 その目が、少しだけ泣いているように見えたのは、僕の気のせいだろうか。

次の日も、その次の日も、僕はミケに話しかけた。

「おはよう、ミケ。今日はご飯、美味しかったね」 「昨日、こっちの犬がすごい寝言言ってたんだよ、ぷぷっ」

「…うるさいねん」 「ほんま、しつこいな、あんた…」

でも、怒る声がちょっとだけ柔らかくなってきた気がした。

「おはよう、ミケ。今日も元気だね」 「はぁ!? あんた、ええ加減にしぃやっ!」

バシッ!

ミケの前足がモカの頬に当たった。 施設の仲間が一瞬ざわつく。モカは動かない。

「…いたっ。びっくりした」 「……う、うち……そんなつもり……」 (自分でも衝動的に出た手に戸惑うミケ)

モカはニッコリ笑ってこう言う。

「大丈夫。ぼく、嫌われるのにはちょっと慣れてるから」 (優しいけど、どこか悲しげ)

「…………あんた、変な奴やな……」

「今日のご飯、ちょっと多くてもらえたから、これ……あげるよ」
モカは、器の隅から小さな一粒をそっと転がした。

「…あんた、アホやな。そんなんしても、うち、なんも返さんで」

「うん、それでもいいよ。ミケとちょっとでも話せたら、それで十分なんだ」

ミケは黙ったまま、僕の顔をじっと見ていた。

それから小さく、小さく――

「…へんなやっちゃな、ほんま…」

って、つぶやいた。

その夜、僕のケージのすぐ横で、ミケが丸くなって寝ていた。

何も言わなかったけど、 そっと尻尾を僕の方に寄せてくれていた。

僕は気づかないふりをしながら、心の中でそっと呟いた。

「ありがとう、ミケ。きっと、ここでも少しは、優しい時間が流れてるんだね」

第二話「ただいまを知らない犬」

施設の隅に、ひとりのおばあちゃん犬がいた。 名前はキヨ。 茶色い毛並みはところどころ薄くなり、歩くと足が少し震えていた。

彼女の声は柔らかく、目は静かで深く、 まるで、すべてを知っていて、すべてを許しているような気配があった。

「キヨさん、昔はどんな家族がいたの?」

ある夜、モカがそう尋ねた。 キヨは小さく笑い、遠くを見つめながら口を開いた。

「…家族、なんてものはなかったのかもしれないわね」 「え…?」

「わたしは、売れる犬だったらしくてね。ずっと“繁殖犬”だったの。妊娠して、出産して、また妊娠して……それが仕事だったのよ。体はボロボロになって、子どもたちは血統書と一緒に売られていったわ」
 
モカは言葉を失った。
 
「子どもが生まれると、また繁殖させられて……。私には名前もなく、撫でられることもなかった。最後は、子どもを産めなくなって、乳も出なくなったからゲージの中に放置されたの」
 
「そんな悲しそうな顔しないで?悪徳ブリーダーなら、産めなくなったら山に放置されるらしいから。まだ私はマシな方よ」
 
しばらく沈黙が流れたあと、キヨは静かに続けた。
 
「でもね。最後にここへ来たとき……一人だけ、“ありがとう、もう大丈夫だよ、もう頑張らなくて良いんだよ”って言ってくれた人がいたのよ」

「ボランティアの、おばあちゃん?」

「そう。“よく頑張ったね”って、頭をそっと撫でてくれたの。それだけで……なんだか、全部が救われた気がしたわ」

その話の数日後の朝だった。

キヨの足は動かなくなっていた。足が動かない、立てないということは排泄もできなくなり、そして水を飲む事も出来なくなって急激に弱っていった。

それから数週間後。 キヨは、自分の毛布の上で眠るように――静かに、旅立っていた。

誰も泣かなかった。 けれど、誰もが、キヨの寝床を見つめて、立ち尽くしていた。

ミケは鼻をすんすん鳴らしながら、小さく言った。

「最後、キヨさん……ええ顔してんな?」
「うん……もしかしたら、夢の中で自分と離れ離れになって育てられなかった子どもたちに、会っているのかもしれないね」
 
その夜。
モカはキヨの寝床の前に座り、ぽつりとつぶやいた。
 
「ぼくね……キヨさんみたいに、優しくて、心の強い犬になりたい」
 
ミケが横に来て、尻尾をふわりと寄せた。
 
「あんた、もう優しいやん」
 
キヨの顔は、
人間を憎むこともなく、穏やかな顔で、
眠るように静かに横たわっていた。

虹

第三話「また、会えたね」

今日の施設は、少しざわついていた。 珍しく、ボランティアのお姉さんたちの声も弾んでいる。

「ほらほら、レオが来たわよ! すっかりいい顔になって!」

レオ?

僕はその名前を聞いた瞬間、跳ねるように立ち上がった。 あのレオ!? 僕と同じ頃にこの施設に来て、いつも隣のケージで寝ていた、あのレオ?

「モカっ! モカじゃないかー!」

ドアの向こうから、聞き慣れた声が飛んできた。

「レオ……!」

僕は駆け寄って、金網越しにしっぽを思いっきり振った。 向こう側には、見違えるほど元気になったレオがいた。 毛艶も良くなってて、目もキラキラしてて、まるで……「幸せ」って言葉が歩いてるみたいだった。

「やあ、久しぶり。元気してたか?」 「うん! …でも、びっくりした。どうしてここに?」

「今日はね、うちの“おかあさん”が、“レオ、貴方も久しぶりにみんなに会いたいでしょう?”って、連れてきてくれたんだ」

「…そっか。いい飼い主さんに会えたんだね」

「うん。あったかい布団で寝て、ごはんも毎日ちゃんとあって、なにより、誰かが帰ってきたときに“おかえり”って言える人がいる。それだけで、もう、最高だよ」

僕はその言葉を聞いて、胸がじんわりと熱くなった。

「あの頃、ふたりで“ここから出られるのかな? 出たらどうなるのかな?”って話してたよね」

「うん。…まさか、ほんとに出られるなんて思ってなかった」

レオは少し黙ったあと、ぽつりとつぶやいた。

「……でもね、前のご主人のこと、今でもたまに夢に見るんだ」

「え?」

「ずっと庭に繋がれてて、寒くても暑くても放っとかれてた。でも、それでも……待ってたんだ。“帰ってくる”って思ってたから」

「でも、ごはんがなくなって、水もなくなって……それでも待ってたんだよ。最後まで」

「モカ、僕ね、前のご主人との思い出が強くて、心のどこかで、まだちょっとだけ……ご主人のこと、探してしまうときがあるんだ。あんなことされても、それでもやっぱり、ご主人のことが好きだったんだよね」

僕は何も言えなかった。ただ、レオの目が優しくて、少しだけ寂しそうだった。

「でも、今はね、おかあさんがいるだけで十分幸せ」穏やかな顔でレオはそう答えた。

そのあと、レオはひとりひとりのケージの前に立って、 「元気でな」「いい飼い主に出会えるよ」って言葉を残していった。

もちろん、ミケのケージの前にも。

「君も……すごくきれいな猫だ。きっと、誰かが君の良さに気づいてくれる」

「…なに言うてんねん、こっぱずかしいわ」 そう言いながらも、ミケの尻尾がふわっと揺れた。

夕方になって、レオと“おかあさん”が帰っていく。 ドアの向こうでレオが振り返って、もう一度僕に笑った。

「また会おうな、モカ!」

僕が引き取られたら、もう会えないかもしれない。 それでも――そっとつぶやいた。

「うん、きっと……いつか」

犬

私とモカ

ある日、朝の光が少しだけいつもと違って見えた。 保護施設に、ひと組の夫婦が現れた。

ミケがこっそり耳打ちしてくる。

「…あの奥さん、犬飼うん初めてらしいで」 「え、ほんと?」 「でもな、旦那さんが“この子にする”って言うてるらしいわ…あんたのことや」

モカの胸が、ふるりと震えた。

ケージの前でしゃがみこんだその女性――あなたは、じっとモカを見つめていた。 優しいけど、ちょっとだけ不安そうな目。 モカは、そっと顔を近づけた。

「…この子、ちょっと寂しがり屋かもね」 ぽつりと呟いた声が、モカにはとても心地よかった。

そのとき、背後から旦那さんの声。

「この子はうちの家族になるんだから、最後まで一緒にお世話をしような」 あなたは小さくうなずいた。

その言葉が、モカの胸にすとんと落ちた。

“この人だ。”

出発のとき。 モカは振り返った。 ミケが、ケージ越しに座っていた。

「しっかりな、アホ犬」 「うん。ミケも、元気でね」

「うちはここで、まだちょっと待っとくわ。…でも、また、どこかで会えるやろ」

ミケの言葉が、風に乗って優しく届く。

空っぽになったキヨの毛布の前でも、モカは一礼した。 心の中で、「行ってきます」と呟いて。

車に乗って、施設を離れていくとき。 モカは窓の外を見つめながら、そっとつぶやいた。

「みんな、ありがとう。ぼく……ちゃんと幸せになるよ。そして、君たちのぶんも、愛されてみせる」

その横で、あなたはモカの頭をそっと撫でた。

「ようこそ、モカ。これから、よろしくね」

モカのしっぽが、ゆっくりと揺れた。 それは、誰にも見せたことのない
ほんとうに静かな、うれしさのしるしだった。

エピローグ

保護施設から引き取ったモカの話でしたが、いかがだったでしょうか?

実はモカは、犬よりも猫が大好きなちょっと変わった子でした。

これはドキュメンタリーですが、保護施設でこんな出来事があったかもしれない……
そんな想像を込めて、物語として書いてみました。

モカは、2024年の六月に旅立ちました。

「私と出会えて幸せだったよ」
そう虹の橋で言ってくれたらいいな、と願っています。

人間の行動しだいで、犬や猫の幸せは大きく変わります。

せめて、エゴで繁殖させたり捨てたりすることのない社会に。
それが、私の願いです。

ワンちゃん、猫ちゃんの幸せと、読者の皆様の幸せを心から願っています。

最後までお読みいただき、本当にありがとうございました。

最後に。
この子が、モカです。

一緒に過ごした日々に、心からありがとう。

モカ
この出会った頃のモカこの写真はモカの記録として掲載しています。無断転載はご遠慮ください。
注意事項

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